地震保険の「一部損」。
基礎のひび割れは、どこから対象か

2026年9月

家の基礎に、細いひび割れを見つけたまま放っていないだろうか。
地震のせいなのか、年数のせいなのか。自分では決められない。

決められないのには理由がある。
一部損の基準は「損害額が時価の3%以上20%未満」と決まっている。
ただ、その3%が何をどう測った数字なのかは、ほとんど知られていない。

この記事では、損害保険協会が公開している認定基準表の実数を使う。
木造の基礎・屋根・外壁が、それぞれ何%として数えられるかを並べた。
読めば、保険会社に連絡する前に、自分の家の見当がつく。

結論を先に書く。1か所だけでは3%に届かないことが多い
ただし合算すると超える場合があり、そこが見落とされている。

建物の基礎のコンクリートに入った、横に走る細いひび割れ

細いひび割れを、放っている人は多い

地震のあと、家の外まわりを一周した人は少ない。
中の片づけで手いっぱいになるからだ。

あとになって基礎のひびに気づいても、判断がつかない。
大した被害ではない気がして、そのままになる。

その状態のところに「無料で点検します」という訪問が来る。
判断の物差しを持っていないと、相手の言葉で決まってしまう。

だから先に、公開されている物差しのほうを見ておきたい。

「一部損」は、3%から始まる

地震保険の建物の判定は、4つに分かれている。
損害保険協会が公開している基準は次の通りだ。

区分主要構造部の損害額支払われる割合
全損時価の50%以上100%
大半損時価の40%以上50%未満60%
小半損時価の20%以上40%未満30%
一部損時価の3%以上20%未満5%

3%に届かなければ、区分そのものが付かない。
つまり保険金は出ない。ここが最初の分かれ目になる。

ここでいう主要構造部とは、軸組・基礎・屋根・外壁のことだ。
家具や内装の傷みは、この計算には入らない。

よくある誤解。ひび割れの「幅」では判定しない

ここが一番間違えられている部分になる。

基礎の損害は、ひび割れが何ミリかで決まるのではない。
認定基準表に書かれている測り方は、こうなっている。

損傷した布コンクリートの長さ
÷ 外周の布コンクリートの長さ

つまり、家の基礎を一周したうちの何割が傷んでいるか、で見る。
1本の深いひびより、あちこちに散っているほうが割合は上がる。

「幅が何ミリ以上なら対象です」と言い切る説明を見たら、そこは疑っていい。
公開されている基準表に、幅の数字は出てこない。

木造の基礎は、こう数えられる

在来軸組工法(日本の木造で最も多い工法)の数字を出す。
2階建ての場合の損害割合だ。

傷んだ基礎の割合損害割合
5%以下2%
5%超〜10%以下4%
10%超〜20%以下7%
20%超〜30%以下9%
30%超〜50%以下11%

左の列が、外周のうち傷んだ長さの割合になる。
右の列が、建物全体の損害としてカウントされる数字だ。

基礎が10%を超えて傷んでいれば、それだけで7%になる。
一部損の3%を、単独で超える。

逆に5%以下なら2%で、単独では届かない。
多くの家が、この「届かない」ところにいる。

屋根と外壁も、同じ足し算に入る

見落とされやすいのがここだ。
基礎だけで判定するわけではない。

部位傷んだ割合損害割合
屋根10%以下1%
屋根10%超〜20%以下2%
外壁10%以下2%
外壁10%超〜20%以下5%

屋根は葺き替えが必要な面積の割合で見る。
外壁は損傷した面積の割合で見る。

どれも単独では小さい。
だが、これらは足し合わせることになっている。

柱が傷んでいると、数字は一気に動く

ここまで基礎・屋根・外壁を見てきた。
実は、もう1つ重い項目がある。軸組、つまり柱だ。

柱は、傷んだ本数の割合で数える。
そして、少し傷んでいるだけで大きな数字が付く。

傷んだ柱の割合損害割合
3%以下8%
3%超〜5%以下13%
5%超〜10%以下20%
10%超〜15%以下27%

柱が3%以下しか傷んでいなくても、損害割合は8%になる。
この時点で、一部損の3%を単独で超えている。

5%を超えて傷んでいれば20%になり、小半損の入口に届く。
基礎や屋根とは、けたが違う。

ただし、柱の傷みは自分では見えないことが多い。
壁の内側にあるからだ。だからこそ、見てもらう価値がある。

傾斜についても決まりがある。
基礎全体が1/20(約3度)以上傾いていれば、それだけで全損になる。

同じ傾きの柱が全体の40%を超えた場合も、全損と認定される。

1か所では届かない。合わせると超えることがある

実際に足してみる。
2階建ての木造で、どこも軽い被害だった場合だ。

軽い被害を合算した例(2階建て・在来軸組工法) 基礎(5%以下) 2% 屋根(10%以下) 1% 外壁(10%以下) 2% 合計 5% → 一部損(3%以上20%未満)に入る
単独では2%・1%・2%。どれも3%未満だが、合算すると5%になる。

基礎が2%、屋根が1%、外壁が2%。
それぞれでは基準に届かないが、合計は5%になる。

3%以上20%未満なので、一部損の範囲に入る。

「うちは大した被害じゃないから」と連絡しない人が多い。
その判断が、この足し算を知らないまま行われている。

ここに書いた数字は、公開されている基準表から取った目安になる。
実際に何%と数えるかは、保険会社の調査で決まる。

自分で計算して申請するのではなく、連絡するかどうかの判断に使ってほしい。

ここは正直に。一部損でも、出るのは5%

期待を先に調整しておきたい。
一部損で支払われるのは、保険金額の5%だけになる。

家財の平均的な契約金額は217万円だ。
その5%なので、10万円ほどになる。

建物の平均は1,062万円になる。
5%だと53万円ほどだ。

基礎の補修費用のほうが、これを上回ることは普通にある。
一部損は「直る額」ではなく「足しになる額」だと考えたい。

それでも、受け取らない理由にはならない。
すでに保険料は払っているからだ。

「基礎のひび=一部損」と言い切る相手には注意する

この記事の数字を見れば分かる通り、単純ではない。
部位ごとに割合を出し、合算してはじめて区分が決まる。

それを見ただけで「一部損は確実です」と言える人はいない。
判定するのは保険会社の調査だからだ。

ここで思い出したいのが手数料になる。
一部損の受取額を53万円とすると、手数料が4割なら21万円が引かれる。

自分で連絡すれば、その21万円は手元に残る。
この勧誘の実態は別の記事に、国の資料からまとめた。

家財は、建物とは別に判定される

建物が一部損に届かなくても、あきらめるのは早い。
家財は完全に別の基準で見るからだ。

区分家財の損害額支払われる割合
全損時価の80%以上100%
大半損時価の60%以上80%未満60%
小半損時価の30%以上60%未満30%
一部損時価の10%以上30%未満5%

家財の一部損は10%からになる。建物の3%より高い。
ただし、家財のほうが判定は重く出やすい。

熊本地震の実績では、家財の64%が半損以上だった。
建物は28%だったので、2倍以上の差がある。

この実績は支払い事例の記事に詳しく書いた。
建物が軽くても、家財だけ重い判定になることは珍しくない。

家財は、品目ごとに数えるのではない

ここも誤解されやすい。
壊れた食器を1枚ずつ数えるわけではない。

認定基準では、家財を5つに分けて見ることになっている。

それぞれで一般的に持っているものの傷み具合を見る。
そこから家財全体の損害割合を出す仕組みだ。

だから「安い物ばかりだから意味がない」とはならない。
判定は、金額ではなく傷み方の割合で動く。

連絡する前の、自己チェック

やることは4つでいい。

  1. 家のまわりを一周して、基礎の傷んでいる場所を写真に撮る
  2. 屋根と外壁も、離れた位置から全体が入るように撮る
  3. 家の中の家具・家電・食器の傷みも撮っておく
  4. 保険証券を出して、建物と家財の保険金額を確認する

そのうえで、保険会社か代理店に電話する。
「一部損になりますか」ではなく「見てもらえますか」でいい。

屋根に登る必要はない。危ないうえに、その必要もない。
調査する人が確認しに来る。

撮り方は写真の記事にまとめた。

対象にならないものも、先に書いておく

とくに1つ目は、業者との間でもめやすい部分になる。
古い傷みを地震のせいだと申請すれば、うその請求になる。

そのときに責任を負うのは、契約者本人になる。
保険金の返還や契約の解除、詐欺罪もありうる。

罹災証明書の「全壊」とは、別の物差しになる

混同されやすいので、ここも書いておきたい。

災害のあと、市町村が罹災証明書を出す。
そこにも全壊・半壊といった区分がある。

だが認定基準の資料には、はっきりこう書かれている。
国が定める住家の被害認定基準とは異なります、と。

制度誰が判定するか何のためか
罹災証明書市町村公的支援や減免の判断
地震保険保険会社保険金の支払い

罹災証明書が半壊でも、地震保険が同じ区分になるとは限らない。
逆もある。片方の結果で、もう片方をあきらめないほうがいい。

どちらも別々に申請する必要がある、と考えておくと間違いがない。

よくある疑問に、先に答えておく

地震から時間がたっているが、まだ請求できるのか

保険金を請求する権利は、3年で時効になると法律で決まっている。
逆にいえば、3年以内なら請求できる。

ひび割れが地震のものか、自分では分からない

分からなくていい。それを判断するのが調査の仕事になる。
分からないまま連絡して構わない。

一部損だと5%しか出ない。それでも請求する意味はあるか

意味はある。すでに保険料を払っているからだ。
請求しなければ、その分は受け取らずに終わる。

マンションの場合はどう見るのか

建物は1棟全体で判定するのが基本になる。
専有部分の損害が大きい場合は、個別に見ることもある。

調査を受けたら、必ず何か出るのか

出ないこともある。3%に届かなければ支払いはない。
ただ、調査を受けたこと自体で不利になることはない。

保険会社の調査には、お金がかかるのか

かからない。契約している保険の手続きの一部だからだ。
調査を受けて支払いがゼロでも、費用を請求されることはない。

ここが、手数料を取る業者との一番の違いになる。
同じ「無料で見ます」でも、後ろに付く条件がまったく違う。

非木造の場合も、同じ数え方なのか

違う。鉄筋コンクリート造や鉄骨造は、まず建物の沈下や傾斜を見る。
そのうえで部分的な被害を足す仕組みになっている。

物差しを持っていれば、玄関先で決めなくて済む

基礎のひび割れは、見ただけでは誰にも判定できない。
それは業者にも、この記事にもできないことだ。

できるのは、判定の仕組みを知っておくことになる。
幅ではなく長さの割合で見ること。部位ごとに足し算になること。

それを知っていれば、「取れますよ」と言われても慌てない。
電話を1本かけて、見に来てもらえば済む話になる。

このサイトについて

「モノレキ」という名前で、家にある物の買い替え時期と保険を1画面で見るアプリを作っている。

家財の判定は5つの分類ごとに見るので、何をいくつ持っているかが分かると話が早い。
登録しておけば、調査のときにそのまま見せられる。

公開は2026年12月を予定している。まだ完成していない。

出典

建物と家財の4区分、基礎・屋根・外壁の損害割合、測り方について。
家財を5分類で見ること、非木造は沈下・傾斜から見ることも同じ資料による。
日本損害保険協会「地震保険 損害の認定基準について」(2022年10月1日)

支払われる割合について。
全損100%、大半損60%、小半損30%、一部損5%の根拠。
財務省「地震保険制度の概要」

3年の時効(保険法95条)について。
日本損害保険協会「保険金請求の時効とは?」

家財の平均保険金額217万円、建物1,062万円について。
熊本地震で家財の64%が半損以上だった実績についても、同じ記事に出典を書いた。
支払い事例まとめの記事を見てほしい。

本文の数字とURLは2026年8月28日に、上記の各資料で確認した。
基準は改定されることがあるため、実際の判断は保険会社に確認してほしい。

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