「保険で無料修理できます」の訪問。
国が出している注意喚起

2026年9月

突然の訪問で「無料で点検します」と言われた。
断る理由も受ける理由も分からないまま、迷っていないだろうか。

迷うのは当然だ。火災保険には、自分では気づきにくい補償がある。
「使えるかもしれない」と言われれば、心が動く。
その心の動きを、そのまま商売にする業者が増えた。

この記事では、国が出している注意喚起だけを使って中身を整理する。
相談件数の実数、手数料の実例、断るための根拠をまとめた。
読めば、その場で判断でき、自分で申請する手順まで分かる。

結論は先に書く。保険金の請求は、自分でできる
これは私の意見ではなく、国民生活センターが公式に書いている一文だ。

少しだけ開いた玄関のドアから光が差し込み、上がりかまちに封筒と紙が置かれている

その勧誘には、4つの機関が同時に動いている

まず知ってほしいのは、これが個人の感想ではないことだ。

国民生活センターは2021年9月に、報道発表資料を出している。
題名にこう書いてある。「保険金の請求は、加入者ご自身で!!」

この資料は、4つの機関に同時に情報提供されている。

情報提供先立場
消費者庁消費者行政の本丸
内閣府 消費者委員会事務局政策を審議する側
警察庁詐欺として扱う可能性がある側
日本損害保険協会保険を支払う側

売る側と守る側と取り締まる側が、同じ方向を向いている。
これは、かなり珍しい状態になる。

相談件数は、3年で3.7倍になった

数字を見ておきたい。
全国の消費生活センターに寄せられた相談の件数だ。

「保険金が使える」と勧誘する住宅修理の相談件数 2018年度 1,465件 2019年度 2,691件 2020年度 5,447件 出典は国民生活センター。PIO-NETに登録された件数。
2020年度は前年度の2倍以上。3年前と比べると3.7倍になった。

2018年度が1,465件。2020年度が5,447件だ。
3年で3.7倍になっている。

この増え方は、災害が3.7倍になったからではない。
この商売をする業者が、それだけ増えたということになる。

実際にあった勧誘を、3つ見ておく

国民生活センターと消費者庁が公表している相談事例がある。
そこにある手口を、こちらの言葉で整理する。

① 「請求期限が迫っている」と急がせる

訪問してきた業者が、こう言う。
「3年前の台風の被害があるかもしれない。請求期限が迫っている」。

調査は無料で、保険金が出なければ負担はない、とも言われる。
とりあえず調査だけならと、契約書に署名してしまう。

相談した人は、あとで思い出したという。
その台風の件は、以前に保険会社から「支払いは難しい」と言われていた。

② 手数料が40%だと、契約書に書いてある

ネット広告を見て、自分から連絡したケースもある。
訪問した業者は「修理代を上回る保険金が受け取れる」と説明した。

手数料は40%。それでも損はない、という説明だった。
だが受け取った書面には、保険金が下りたらその40%を払うと書いてある。

保険会社の査定が、業者の見積もり通りになる保証はどこにもない。
あとで解約を申し出たが、できないと言われている。

③ 修理をやめたら、違約金を請求された

消費者庁の資料には、こんな事例が載っている。
雨どいの修理を依頼したあと、やめると伝えた人の話だ。

その人は、30%の違約金を請求されている。
「無料」という言葉は、途中でやめる場面までは守ってくれない。

「無料」がどこまでを指すのか、書面で確かめる

この勧誘の入口は、たいてい「無料」だ。
ただ、その無料が指しているのは調査だけ、ということが多い。

署名する前に、書面の3か所だけは見ておきたい。

見る場所何を確かめるか
手数料の欄保険金の何%か。上限があるか
解約・違約金の欄やめた時にいくら払うか
クーリング・オフの欄記載があるか。何日以内か

この3か所が読み取れないなら、その場で署名しないほうがいい。
持ち帰って読む、と言って断るだけで足りる。

手数料が保険金の3〜4割だとすると、100万円の保険金で30万〜40万円になる。
その分は、本来なら自分の家の修理に使えたお金だ。

入っている保険を自分で使えば、その30万〜40万円は手元に残る。

いちばん大事な一文は、国が書いている

国民生活センターの資料に、こう書かれている。

申請サポート会社に頼らずとも、
保険金の請求は加入者自身で行えます

消費者庁の資料にも、ほぼ同じ言葉がある。
「保険金の請求は、ご自身で簡便に行うことができます」。

つまり、この商売が売っているのは代われる作業だ。
自分でできないことを、代わりにやってくれるわけではない。

自分で申請する手順は、5つしかない

実際にやることを並べてみる。
難しい判断は、こちらではなく保険会社の側が引き受ける。

  1. 保険証券を出して、家財と建物の補償内容を見る
  2. 被害の場所を、片づける前に写真で撮る
  3. 契約している保険会社か代理店に電話する
  4. 送られてくる書類に記入して、写真を添えて返す
  5. 保険会社の調査を受けて、結果を待つ

判定するのは保険会社だ。
だから、こちらが被害を大きく見せる必要はまったくない。

写真の撮り方は別の記事にまとめた。
受け取れる額の考え方はいくらもらえたかで書いている。

「どこまでが対象か」を知っていれば、断りやすくなる

玄関先で迷ってしまうのは、線引きを知らないからだ。
ここを先に押さえておくと、話を聞く側の足場ができる。

損害保険協会は、対象になるものとならないものをこう説明している。
自然災害による損害は、多くの場合カバーされる。
一方で、自然の消耗や劣化、さびによる損害は対象にならない。

対象になりやすい対象にならない
台風で瓦が飛んだ年数がたって瓦がずれてきた
雪の重みで雨どいが折れたさびて雨どいが傷んできた
ひょうで外壁が欠けた塗装が色あせてきた

右の列は、時間が経てば誰の家でも起きることだ。
これは保険ではなく、修繕費で直す範囲になる。

「これも保険で直せますよ」と言われたとき、思い出したいのはここになる。
原因が災害なのか、年数なのか。判断の軸はその1つだけだ。

もちろん、最終的に決めるのは保険会社になる。
ただ、軸を持っていれば、その場でうなずかずに済む。

ここは正直に書く。うその請求は、自分が罪に問われる

この話で、いちばん怖いのはここになる。

業者に言われるまま、実際にはなかった被害を申請したとする。
そのとき責任を負うのは、業者ではなく契約者本人だ。

国民生活センターは、起こりうることを3つ挙げている。

とくに間違えやすいのが、経年劣化との線引きになる。
古くなって傷んだ部分は、そもそも保険の対象にならない。

それを台風の被害だと申請すれば、うその請求になる。
業者が「大丈夫」と言っても、名前を書くのは自分になる。

「請求期限が迫っている」は、どこまで本当か

急がせる言葉には、一応の根拠がある。
保険金を請求する権利は、3年で時効になると法律で決まっている。

ただし、これは「今日決めないと消える」という意味ではない。
3年あるということでもある。

自分の被害がいつのものかは、自分が知っている。
相手に急がされて決める理由には、ならない。

もう署名してしまった人にも、戻る道がある

訪問販売や電話勧誘で契約した場合は、クーリング・オフができる。
書面を受け取った日から8日以内なら、無条件で解約できる。

8日を過ぎても、あきらめなくていい場面がある。

この2つに当たるなら、8日を過ぎていても行使できる。
すでに一部を払っていても、その返還を請求できる。

自分で判断せず、まず消費生活センターに聞くのが早い。
電話番号は次の章にまとめた。

被災した直後は、とくに狙われる

国民生活センターは2022年にも、別の注意喚起を出している。
災害のあとの住宅修理トラブルをまとめたものだ。

そこには、公的機関の名前を使う手口も載っている。
「県の防災部署から委託されている」と電話があった事例だ。

その人が県に確認したところ、まったく無関係だった。

公的機関の名前を出されたら、その場では答えなくていい。
電話を切って、自分で市役所か県庁の番号を調べてかけ直せば済む。

本物なら、かけ直しても困らない。

災害の直後は、判断する力がいちばん落ちている時期になる。
だからこそ、平時のうちに知っておく価値がある。

相談できる窓口を、先に控えておく

どれも公的な窓口で、相談は無料になる。

窓口電話何を聞けるか
消費者ホットライン188勧誘・契約のトラブル全般
住まいるダイヤル0570-016-100リフォームの見積もりや工事
そんぽADRセンター各地に窓口保険会社との間の話

迷ったら188でいい。
最寄りの消費生活センターに、自動でつながる番号になっている。

よくある疑問に、先に答えておく

申請サポート業者は、全部が悪質なのか

そうは言えない。まっとうに営業している事業者もいる。

ただ、頼む前に知っておきたい事実がある。
自分で請求しても、手数料はかからないということだ。

保険会社に自分で連絡すると、断られやすくなるのか

そういうことはない。判定は被害の中身で決まる。
誰が連絡したかで、結果は変わらない。

保険を使うと、保険料が上がるのか

火災保険には、自動車保険のような等級の仕組みがない。
保険金を受け取ったことが、翌年の保険料を決める要素にはならない。

屋根の上など、自分では見えない場所はどうするのか

無理に登らなくていい。危ないうえに、その必要もない。
保険会社に連絡すれば、調査する人が確認しに来る。

点検だけなら、受けてもいいのか

受けること自体は自由だ。ただ、その場で書類に署名しないでほしい。
相談事例でも、署名したのは「調査だけのつもり」の場面だった。

本当に被害があるなら、頼んでもいいのでは

その判断はあっていい。ただ、順番を1つだけ変えたい。
先に保険会社へ連絡してから、頼むかどうかを決めればいい。

損害保険協会も、契約する前に保険会社か代理店へ相談するよう案内している。

「無料」の後ろにあるものを、一度だけ確かめる

この記事は、修理業者に頼むなという話ではない。
工事そのものは、業者にしかできない。

分けて考えたいのは、保険金の請求のほうになる。
そこは、自分でできると国が書いている部分だ。

すでに毎年、保険料は払っている。
その保険を使うときに、受け取る額の3割や4割を渡す理由はない。

玄関先で急がされたら、一度ドアを閉めていい。
証券を出して、保険会社に電話する。順番はそれだけになる。

このサイトについて

「モノレキ」という名前で、家にある物の買い替え時期と保険を1画面で見るアプリを作っている。

自分で申請するときに要るのは、保険証券と被害の写真の2つだけだ。
証券を写真で残しておけば、玄関先で急かされた日にもすぐ電話をかけられる。

公開は2026年12月を予定している。まだ完成していない。

出典

相談件数について。
2018年度は1,465件、2019年度は2,691件、2020年度は5,447件。
手数料40%の事例、請求期限をうたう勧誘、消費者へのアドバイスも同じ資料による。
情報提供先の4機関と、クーリング・オフの要件も同じ。
国民生活センター「保険金で住宅修理ができると勧誘する事業者に注意!」(2021年9月2日公表)

公的機関の名前を使う手口、災害後のトラブル、住まいるダイヤルについて。
国民生活センター「被災地域は特に注意!災害後の住宅修理トラブル」(2022年6月16日公表)

30%の違約金を請求された事例について。
消費者庁のリーフレット(PDF)に、「保険金の請求は、ご自身で簡便に行うことができます」の一文もある。

3年の時効(保険法95条)について。
日本損害保険協会「保険金請求の時効とは?」

経年劣化が対象外であること、契約前に保険会社へ相談することについて。
日本損害保険協会「住宅の修理などに関するトラブルにご注意」

本文の数字とURLは2026年8月28日に、上記の各ページで確認した。
制度や窓口は変わることがあるため、相談する前に最新の情報を見てほしい。

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